家族信託とは、ある目的を達成するために財産の管理・処分を託す制度です。従来は財産の所有者がその財産の管理・処分権を有し、経済的利益を得ていましたが、家族信託では信託財産に対する所有権(管理・処分権)と財産的価値を分離することができます。
ポイント1 遺言や後見制度ではできない相続対策が可能に
相続対策というと遺言を思い浮かべるのではないでしょうか。遺言では自分亡きあとの相続財産の行く先を決めることができます。例えば、「自分が亡くなったら自宅は妻に」のように。しかし、それ以降に生じる相続については遺言では定めることができません。例えば、「自分の財産をまずは妻に相続させ、妻の亡くなった後は自分の甥に渡したい」と思っていても遺言でそれを定めることができません。家族信託を利用することにより、財産の承継先を複数定めておくことが可能になります。
また、認知症になってしまった高齢者の方の財産管理方法として成年後見制度があります。しかし、被後見人(認知症になってしまった方)の財産を守ることを目的としており、後見人の意思で自宅を修繕したり、建て替えたりすることはできません。家族信託であれば、積極的な財産運用を行うことができるため、大規模な修繕や建て替えを行うことも可能となります。
ポイント2 新しい形の事業承継を実現できます
家族信託により株式を信託した場合は、株式の経営権と財産的価値が分離されるため、経営者自らが経営権を引き受けることで、従来と同じように経営を行うことができ、財産的価値は後継者が取得するといったことが可能です。
ポイント3 遺留分対策もできます
家族信託を用いて収益物件の管理・処分権を一人にまとめつつ、受益権を法定相続割合に応じて各相続人に取得させることが可能です。
家族信託の主な登場人物
委託者・・・家族信託の目的を決め、そのために自分の財産を出す人のことです。委託者が「誰」のために「どの」財産を「どのように」使うかを考えるところから家族信託は始まります。
受託者・・・財産を預かり、定められた目的に従って家族信託を動かしていく、中心的な役割を果たす人です。
受益者・・・家族信託によって生まれる、さまざまな利益を得る人のことです。受益者は未成年や認知症の方など、どのような人でもなることができます。
家族信託を支える人々
信託監督人・・・受益者が年少者、高齢者または知的障がい者であるなど、受益者自身で受託者を適切に監督できないような場合に、受益者のために、受益者の権利を行使し、受託者の信託事務処理を監督します。
受益者代理人・・・受益者が多数であったり、頻繁にかわったりなど意思決定や監督が難しい場合に受益者の代理人として受託者の監督を含め、受益者が有する一切の権利を行使する人です。
信託監督人を置くか、受益者代理人を置くかは、家族信託の内容によって変わってきます。ただ、信託のチェックには専門的な知識が必要ですので、これらの役割には士業など専門家が就任することが多くなっています。
家族信託が終了するとき
家族信託を開始した人には必ず家族信託によって実現したい「目的」がありますので、その目的が達成できたら家族信託は終了します。また、家族信託の終了事由を契約で定めておくことも可能です。例えば、認知症である母の暮らしを守ることを目的として開始する場合には、母の死亡を終了事由として定めておきます。さらに、信託財産の最終的な帰属先も契約で決めることができます。
費用の比較
成年後見制度 | 家族信託 | |
初期費用 | 15~25万円程度 | 40万円~100万円 |
毎年必要となる費用 |
24万円~72万円 ※管理財産額による |
特になし ※受託者の報酬を定めてもよい ※専門職を信託監督人とした場合、報酬が必要となる |
家族信託のスケジュール
1、専門家との相談
2、契約書作成
3、信託契約の効力発生
4、財産管理体制の確立
5、信託財産の管理・処分の遂行
6、定期的な報告義務
7、家族信託の終了
8、清算事務
9、清算事務の結了
家族信託の一年
受託者が一年間に行う業務は以下の通りです。
帳簿の作成
自宅の管理
賃貸物件の管理
財産状況開示資料の作成と受益者への報告
信託の計算書の提出
家族信託の終わり方
家族信託が終了した時、次の信託の清算に関する手続きを行います。
①現在の受託者としての任務の完了
②信託財産に関する債権の回収と債務の弁済
③受益債権に関する債務の弁済
④残余財産の給付
⑤信託事務に関する最終の計算書の作成